ブラント君の傷跡

「好きだよ」
「愛してるよ」
と言われたのは何回だっただろう?言われすぎていて覚えていない。
僕は何回言っただろう。きっと両手で足りるくらいなんだろう。
彼の言葉は重くはなかった。無理強いしてくることは無い。僕のことを考えてくれる優しい人だった。
…僕はずっと疑問だったんだ。なぜそこまで僕のことを考えてくれるのか?正直に聞くと「好きだからだよ」という返事。
なぜ好きになったの?とは聞けないでいた。聞いてしまうと彼は悲しい顔になる。実は失敗していなかった任務だって、何らかの傷をつけていくことを彼は知っていた。
長い間開いたり閉じたりを繰り返した僕の傷は、僕を臆病にした。特に彼からの気持ちに対して酷く効いた。はじめは断ることしかできなかった。事実を知ってもなお傷は僕を離さなかった。
それでもやっと彼の気持ちを受け入れて、恋人になった。彼の表現は以前より激しいもので、僕はついていくことしか出来ない。そして我にかえると毎回傷が主張を始める。その繰り返しだ。
結局僕は彼に自分の気持ちを心から、ちゃんと向き合って言えなかった。言えないことがわかっていたから、幾度も「僕は君に応えられない」と告げたのに。彼はもっと幸せになるべき人なのに、どうして僕だった?
彼は不幸な人だと僕は思う。他人を放っておけない人。痛い目を見るのにやめない。「好きだから」というだけで自分を犠牲にする…とんでもない人。
…最後まで言えなくてごめんなさい、とても好きだっていうこと。そんなところが好きだっていうこと。