出張

「おいグエロ、俺は明日から1週間出張するからな。覚えてたか?」
「覚えてるって!」
「飲みすぎんじゃねえぞ」
「それはちょっと保証しかねますね」
「保証させてやる、この野郎」
「それは勘弁だわー」

ファラデーとバスケスは恋人だ。とは言っても親友の延長のようで、もどかしいとファラデーは思っている。バスケスは下ネタは言うくせに真面目で恥ずかしがり屋の短s…、とにかくファラデーは付き合う前も付き合ってからももどかしかったのである。愛するメヒコ野郎が好きとあまり言わないしセックスもあんまり積極的でないから。ていうか全然、ご無沙汰、最後にヤったのいつだっけ?要するに欲求不満だった。さらにここへ来て出張という。なんで!タイミング悪すぎる!折角メヒコちゃんを落とす計画を立てたのに!

「あーーーーーーーー!!!!!!」
「うわなんだようるせえ!」
「女の子買っちゃおうかな…」
「何言ってるんだ趣味わりいな。自称世界一のモテ男のくせに」
「やっぱそうだよな俺世界一のモテ男だし…」
「自称って言ってるだろ」

なんというかグエロからこういう言葉が出るのにもやっとした。俺が危惧していた事態になるんだろうか?仕事が忙しいしなかなかそういう雰囲気にできないからご無沙汰なんだが。致し方ないとは到底思えない、でも…。

 

二人して悶々としたまま、夜は更ける。どちらからともなくベッドに入り、そのまま寝た。やがて朝が来て、バスケスは出張した。

「めんどくせえな!誰も居ねえってのに家事はしなきゃなんねえのなー」
ファラデーは洗濯物を取り込みつつひとりごちた。バスケスの前では女の子買っちゃおうかなと言ったものの、いざ居なくなるとそういう気が全く起きない。
「はー…俺はとうとうダメになったかもなあ…」
今日は腹が立つほど晴れていて、洗濯物はあっという間に乾いた。山盛りになった洗濯物を抱えていると、少し焼けたような匂いがした。よくCMで『お日様のかおりー!』ていうやつだな。でも俺にとってはメヒコの匂いなんだよな。
その香りをたまに嗅ぎながら、洗濯物の山を片付けた。

「早く帰りてえ…」
出張と言えど、同僚と一緒では気が緩む。気が緩んでいるのはもちろん俺ではない方だ。あまりよく知らない土地で羽目を外すなんてことはしたくないのに、引きずられるようにして飲み屋に入った。うるさい場所だ。同僚はとっくの昔に出来上がってて、店の騒がしさに拍車をかけている。見も知らぬ奴らと楽しそうに喋っている。俺は少し離れたところからそれを見ていた。すると、同僚と目が合った。同僚は俺にちょっかいをかけ始めた。呼気が酒臭い。ふとグエロの姿がよぎった。
「早く帰りてえなあー」

 

1週間は思ったよりあっという間だった。でもバスケスが帰ってくる日は楽しみで眠れなかった。案の定、昼間に酷い眠気に襲われることになった。そして、つい、うっかり、俺は寝てしまった。あまりに窓から射し込む光が暖かそうだったから。

「ん?」
部屋の明かりが付いてない。買い物?と思いつつ家に入った。真っ暗だ。カーテンも開けっ放しだ。閉めようとしたら、足元に何か転がっているのに気づいた。グエロだ。寝ている。起こしてやろうかと思ったが、ベッドまで運ぶ余力が俺にはなかった。仕方ないから毛布を掛けてやり、折角なら驚かせてやろうと俺も毛布に収まった。俺はいつの間にか寝ていた。

「やべえ!」
真っ暗だ。寝過ごしちまった。バスケス、バスケスはまだか?身体がバキバキじゃねえか。
俺は飛び起きて、ひとしきり慌てた後に毛布が掛かっているのに気づいた。視線を落とすとバスケスがいた。寝ていたが全く気にせず飛びついた。
「メヒコちゃん!!!!!!!」
「ぐえ!」
「おかえりメヒコー!」
「うるせえよ…。ただいま」

ただいまのキスなんてするような柄じゃないのに、気づいたらしていた。俺はたぶん寝ぼけてた。触れるだけのものだったのに、グエロが柔らかく笑うから俺が恥ずかしかった。

「くそ、笑うんじゃねえよ…」
「メヒコちゃん、俺がそんなに恋しかった~?」
「そんなわけないだろ、お前こそ俺が恋しかったんじゃねえの?」
「うーん洗濯物の匂い嗅ぐ程度には?」
「嘘だろ!まじかよ…」
「ご不満?」
「いやそんなことは…にやにやすんじゃねえ!」

 

出張前の悶々とした気持ちが消える。なんとなくこいつは俺が好きで、俺はこいつが好きってわかったから。

 

 

「もうこんな時間か。風呂入らねえと」
「何?お風呂?一緒に入る?お背中流しましょうか?」
「わかった。それじゃ頼む」
「えっ…」
「お前が絶句すんな!なんか恥ずかしいだろ!」