甘えた

いつもより遅くなった。
玄関に入ると、リビングから光が漏れているのがわかる。もう遅い時間なのにまだ起きているのか、いい加減寝ろと俺は言っているのに!

リビングに入ると、ファラデーがソファーに寝そべって携帯をいじっていた。なんでもないように「おかえりメヒコちゃん」なんて声が掛かった。思わず剣呑な声が出そうになったが堪えた。ふとテーブルを見ると空になった缶ビールが1つ置いてある。こちらはしっかり守れているようだ。
俺はファラデーの向かい側にある椅子に座って声を掛けた。
「ファラデー、来い」
ファラデーは携帯を置いて近寄ってくる。
「おすわり」
大人しく俺の足元に座り込んだ。そういえば図体がでかくて窮屈そうだから場所を替えてやろう…と思いつつ、ファラデーの頭を撫でてやった。
「いい子だな!酒ちゃんとセーブ出来てて偉いぞ、よく続けてるよ。また明日も頑張るんだぞ!」
ファラデーは顔を真っ赤にしていて正直可愛い。もっと甘やかしたい気持ちに負けそうだが、言わなければならないこともある。
「ファラデー」
「なに…」
少しぼんやりしているようだったから、顎を掴んで目線を合わせた。俺はできるだけ厳しい視線を向けた。するとファラデーの表情が固くなる。
「俺、何かしたか…?」
「寝てなかった」
「寂しかっ?!」
ファラデーの口に指を突っ込む。舌の根元を押すとくぐもった声が漏れた。
「ごちゃごちゃ言うなファラデー、頷くか、首を横に振るかで答えろ。いいな」
この間にも舌を押したり歯茎をなぞったりしていた。ファラデーは「う…ぉぇ…」と言いながら頷いた。
「お前が寝る時間の管理を頼んできたよな?酒場行っちまうからって」
「ああ、う」
「頷くか首を横に振るかだ」
強く舌を押してやると「ふぐ!うぇ…」と言う。
「どうだったっけな?」
ファラデーは頷いた。
「今日守れなかったのは寂しかったからか?」
また頷いた。
「せめてベッドに入っとけってこの間言ったよな、覚えてたか?」
頷く。ついでに涙と涎が溢れてきて顔がぐちゃぐちゃだ。この顔は非常に可愛いし、もっとやりたくなるが、ファラデーは吐くのが嫌いだ。これ以上はだめだと自制して指を抜いた。
「げほっ…はっ、はーっ……」
「今度はきちんとベッドに入っておけよ、わかったか?」
またファラデーは頷いた。
「よしよし、いい子。よく頑張ったよ。俺できるだけ早く帰るから、風邪とかひいてくれるなよ?」
咳き込むファラデーの背中をさすりつつ言ってやった。

「う…」
ファラデーが抱きついてくる。「よしよし、いい子だ。今日もすごく偉かったぞ、愛してるよ」と言って抱き締め返してやった。ファラデーを見ると、こちらを向いた目が今にも溶けそうなほどぼんやりとしていて可愛い。
「辛くなかったか?」
「だいじょうぶだった…」
「それならいいんだ」
「うん…」

 

今にも可愛いと叫び出しそうになりながら、ファラデーを待った。