甘やかし

「ファラデー、ちょっと来てくれないか?」
「おう」
ファラデーが向かい側のソファーに座った。俺がファラデーに頼み事をする時はいつもこうする。いつでもこいつが拒否できるように。まあ今はさっさと本題に入ろう。そうして俺はテーブルにあるものを置いた。
「実はな、これをお前にやろうと思ってな。どうする?」
「あー…そうね、いいよ」
「本当?」
「だめだったらその時言うよ」
「わかった」

 

 

「おら、着ろ」
そう言ってまず俺が手渡したのは女性用の薄い下着だった。
「まじ?」
「しょうがねえだろ」
「くそ…」
悪態をつきながらも大人しく着る様子に少し感動したが、こんなのは序の口だ。次に俺が取り出したのは本題、つまり…コルセットだ。断っておくが腰痛用じゃない。ドレスを着た女性が着けるものだ。あまり派手なものは今回の用途に向かなかったから、メイドがつけたような質素なものにした。丈は短く、一応ジーンズも履けるようになってはいる。まさに今ファラデーはジーンズを履いているし。
紐を緩めて背中側から回して、バスクを留める。ここまでなら一人でもできる。
問題は次だ。
「ぐっ…」
「ちょっと我慢しろよ…。おら背筋伸ばせ」
「待てって、くるし…」
「これはそういうもんだ」
紐を締めていく作業だ。これが滅茶苦茶に大変だ。お互いにな。昔は数時間かけるようなのもいたようだが、あいにく締めれば締めるほど細くなる…の程度が知れている。だが時間はかかる。だんだん緩んできて何回も締めなければならない。
「おい…いつまでやってんだよ…」
「緩んだとこがあるの許せねえんだよ。おいそこの壁に手つけ」
「…ついたぞ」
「失礼…」
そう言うと俺は靴を脱いでファラデーの背中に足をかけ、一気に紐を引いた。
「んっ…んぐぐ…っ!」
「これで終わるからな…」
残った紐を結んで完成だ。なかなか自分でも綺麗にできたように思う。ファラデーにこちらを向かせ、じっくりと見る。肉付きの良さが際立っていてなかなかだ。気がつくとこいつ…少し兆している。ただやりたいことはまだあるから放っておく。
「ファラデー、買い物行こうか」
「え…このまま?」
「当たり前だろ行くぞ」
細身のTシャツを被せてやった。

 

 

車で近所のドラッグストアまで行った。いつもはずんずん進んでいくファラデーがゆっくり歩いている。歩きにくいのもあるだろうが、息が上手くできないんだろう、ふらついてる。その割に顔がほんのり赤く、じっとり汗をかいている。
狭い店内をゆっくり一周して帰った。買ったのはコンドームとローションだ。…まあそういうことだ。

 

 

家に入るとファラデーが「くるしいよばしゅ…はずして」と呂律が回らない様子で言ってきたのですぐ外してやった。
「ごめんな、やりすぎた」
「大丈夫、でも俺ちょっと寝る…」
歩いていこうとしてたがどうもふらふらしているのでベッドまで一緒に行ってやった。一応薬の準備をするかと離れようとしたら引き止められた。泣きそうな顔だ。
「ばすけす、ばすけす」
ベッドに入って抱きしめて、頭を撫でてやる。
「しんどかったな、ごめんな。今日はすごく頑張ったよファラデー、偉いよ」
表情が緩んできていて安心する。もう少しでバッドトリップさせるところだった。
「元気になったら、ごほうびいっぱいやるからな…しっかり休めよ…」
「わかった…」
頭を撫で続けていると、やがて寝息が聞こえてきた。

 

 

 

こいつが起きたら精一杯甘やかすと心に決めた。