もちもの - 1/2

「さて新学期が始まったから、無くしてはいけない大事なものには名前を書いておくように」

 

 

もちもの

 

 

HRの時間。2年7組を受け持つチザムは目の前の小学生達にそう伝えた。真新しい教科書にマジックで名前を書くもの、鉛筆で書くもの、最早書かないものなど様々だった。HRの時間はあっという間に過ぎていった。

7組はチザムが今まで持ってきた中でトップクラスに騒がしかった。特にバスケスとファラデーがうるさかった。1年生で同じクラスであり、仲はいいがファラデーが挑発してすぐ喧嘩になると聞いていた。なるほどその通りだ。今もバスケスがファラデーを追いかけて走っている。止めようと近付くと、おかしなことに気づいた。バスケスのシャツの背中が灰色っぽくなっている。とりあえずバスケスを呼び止めて後ろを向かせると『ふぁらでー』と鉛筆で書いてあった。鉛筆でよかった、本当に…。次にファラデーを呼び、どうして名前を書いたのか訊いた。
「どうしてこんなことを?」
「大事なものには名前をって先生言ったでしょ」
「…それはそうだが、シャツはバスケスの持ち物だ。名前を書いてしまうと、傷んでしまうし、あまり着られなくなる。そうするとバスケスが困るだろう?」
「それは…うん」
「今回は鉛筆だから、なんとかして消すようにするんだよ」
「わかった」
その後様子を見てみると、消しゴムで消していた。余計傷みそうだったが、濡らしても替えがないのでしょうがない。そのままにしておいた。