ベンジーの危機 - 1/2

ここは分析官の部屋。甘い香りが充満している。ドーナツの甘い香りだ…。そして、ブラントが涎を垂らしそうになったのを見た。俺は確かに見た。
「いい歳のおっさんが涎かよ…」
思わず口にしていたが、ブラントは気にしていないようだ。
「セールだぞ!!!!箱だぞ、箱!!!!」
箱買いなんていつもしてるじゃないか、と言いたかったけど。幸せそうなので言わないでおく。
「箱のこのわくわくする感じが…」
さっきからずっとしゃべってる。うん、俺が辟易するくらいにしゃべってる。
周りを見るとブラントの部下たちがじっとこちらを見つめている。きっと上司がかわいくて仕方がないのだろう。ブラント自身は気づいてないけど。変なところ鈍いよな。
「子供みたい」
おっと、また口から勝手に。ブラントに凄まれた。
「違う!子供みたいで可愛いなって!!!!」
必死で取り繕うように言ったけれど、間違ってない。本心だ。
ブラントがじっとこちらを見つめてくる。
「僕は可愛いのか?」
ブラントが問うてきた。
「えっ、いやぁ…その」
「イーサンにも言われるんだよ、可愛いって。僕はよくわからなくてな」
「へ、へぇ…」
「あれはどういうことだ?他にもなんか視線を感じると思ったらイーサンだったとか、なぜかイーサンが僕の家を知っているだとか、休暇だと知ってるだとか、電話番号知ってるだとか」
「それは、ひどい」
ごめんね、イーサン、俺しらばっくれちゃった☆…いや、そんなテンションじゃない。イーサンの気持ちを俺は知ってるけど、これはあまりにもひどい…というか気持ち悪い。何より気づかないブラントがすごい。通報ものだと思うけど?普通なら。普通じゃないからしょうがない気もするけど。なんにせよ、恋愛とか自分への好意に壊滅的に鈍いブラントには、伝わってないようだね、イーサン。かわいそうに。
「まるでイーサンはブラントのストーカーだな」
ちょっと言ってみただけ。
「ストーカー?僕に?僕、何かしたか?」
だめだ、言いそう。『イーサンはブラントのことが好きなんだ』って言いそう。でもこればっかりは本人が言わないといけない。
「何かっていうか、うーん」
「ベンジー、何を知ってる?」
くそ、迂闊だった!
「何も知らないよ」
「嘘だ」
「本当だよ!!!!」
「嘘だ、ベンジー。何を知ってる?」
言っちゃダメ言っちゃダメ言っちゃダメ言っちゃダメ!!!!!!!!俺の葛藤の間にも、ブラントはどんどん距離を詰めてくる。やめて、怖いから本当!イーサン出てこい!!!召喚!!!ヘルプミー!!!!!!