ファラデーの夢

こっちに来いよ

俺はどこかにいた。いつもは焼けるような太陽の下にいるのに、今は周りが白くて何も見えない。
どこからか声が聞こえる。無視してもよかった。そうはしなかった

あ?誰だ?
?お前がよく知ってる奴だろうがもう忘れたか?
忘れたも何も俺はお前を知らない。
俺は正直に答えた。第一顔も見えねえのにわかるはずがない。すると靄が俺の頬を撫でた。やけに生温く、湿っていた。
?やっぱりここでも駄目か
何が駄目なんだ?ここでも?
?なんでもねえよ。じゃあな
おい待て!

気付くと靄に手を伸ばしていた。どこの誰かもどうやって語りかけてるかもわからない奴のために何をやってる?

?優しい奴ってのは本当に…。
くそ、黙れよ!

離してはいけない、俺にあるのは間違いなく焦り。でも俺の手は空を切るばかりだ。どうして?わからない。わからないんだ。どうしても行ってほしくない。潰れそうで泣くこともできない。ただ靄を掴もうとしていた。

?時間が来ちまう。すまねえ
時間ってなんだよ!行くな!行かないでくれ、1人で、1人きりなんて許さない、俺も行くから

「行かないでくれジョシュア!」

自分の声で目が覚めた。夢を見ていた。
「大丈夫かバスケス?」
かけられた声が夢に出てきた声そのままで驚いた。隣で寝ていた男が心配そうにこちらを見ている。俺はこいつの夢を見てたのか?それにしては雰囲気が違いすぎる。俺の設定もかなりおかしかった。俺が太陽の下?そんなのしばらくない。
考え込む俺に痺れを切らせた男はもう一眠りするようだ。何故か俺の手を握って。
「なんで手を握るんだよ…」
「行かないでとか言われちゃったんだし握るしかないと思って」
「…」
「ほらほらいい子ですね、手握っててあげるからよく眠るんですよ」
「ふざっけんな!」
男の手は温かい。癪ではあるが、握っていると安心できる。

すぐにバスケスは寝た。元々寝つきがよく眠りも深いから簡単だ。しかし夢は厄介だ。どうすることもできない。だらけきった寝顔を見るのが好きなのに。
「もういい加減やめたらどうだ?」
?俺に諦めっていうのは似合わねえだろ?

過去の亡霊は厄介だ。例えそれが自分だったとしても。