俺の身にもなれ

「…堪らねえな」
「何が堪らねえって?」
嫌に上機嫌な男が振り向いた。どうやら声に出ていたようだ。
「向こうのテーブルの女だよ。ケツが良い」
「あ??…そうだな、あれはかなり良い、声かけてくるぜ」
「やめとけグエロ、お前クソみてえな酔っ払いだぜ?勃つのか?」
「ああ?!任せとけよ、俺の…あ」
俺たちがやり合ってるうちに肝心の女が店を出ちまった。よく見りゃ旦那もいた。睨まれた。

ここはある酒場だ。格好つけて飲むんじゃない、かなりうるさい場所だ。正直口説くのには向かない。来るのは家族、友人…気心知れた奴らが飲むにうってつけだ。俺たちは常連。
「おいメヒコ野郎お前のせいで逃げられちまったじゃねえかよ!」
「クソグエロ、お前旦那がいたの見えなかったか?」
「知らねえよ、声かけるだけだぜ?」
俺の連れのグエロ…ファラデー。適当野郎だ。自称世界一のモテ男だが、気に入る相手が悪く、まずい場面に陥ることがある。さっきのはいい方だ。優しい旦那でよかった。
「女もいなくなったし帰るぞ」
「もう少し付き合え」
「嫌だ。酔ったお前の介抱程めんどくせえものはねえよ」
「じゃあ俺一人で飲んでるからお前帰れよ」
「お前泥酔するから目が離せねえんだよ!」

「お前さんたち、もう店じまいするぞ」
「わかった」
「いつもより早くねえか?」
「早い時もあるんだよ、ほら、帰った!」
「よくわかんねえな…」

店主は俺の味方。グエロが泥酔した時、俺に同情した店主が助けてくれている。
帰り道でもグエロはしつこい。
「飲み直」
「帰る」
「家で」
「寝る。俺は眠い」

俺たちは同じ家に住んでいる。正確に言うと、数年前ギャンブルで全財産スったグエロが俺の家に居候している…だ。
俺は帰るなりベッドに倒れ込んだ。既に午前3時、いい子じゃなくても流石に寝てる時間だ。グエロは全く眠くなさそうだが。
「メヒコ、もう寝るのか」
「あたり前だろ何時だと思ってんだ…」
「…わお」

俺がうとうとしてると、隣に重みを感じた。グエロがベッドに入ってくる。いつものことだ。最初は驚いたが、居候とはいえずっとソファは可哀想だろ?次は俺の腕に重みがかかる。俺を抱き枕にするとはおかしい奴だと思う。これにも最初は驚いたが、好きにさせている。

何より腕が、胸が、太ももが、体温が
「…堪らねえな」

いつか俺の好きなようにしたいもんだな。